シリーズ:W杯とバロンドールの関係(全2回)
①この記事|W杯の「前」に決まっている賞から見る。開幕時点でバロンドールを持っていた選手の国は、その大会で何位だったのか(1958年から18大会)。
②|W杯の「後」に決まる賞から見る。W杯の年に受賞した選手は、その大会で何位の国から出たのか(1958年から16大会)。
この記事の要点
- 保持国の順位を18大会分並べた
- 最多は準優勝6回。優勝はゼロ
- 決勝は0勝6敗。進出率は期待値の4.6倍
- 欧州限定の資格が、破れない構造を作った
初心者メモ
Q. 「保持国」とは?
その年のバロンドール受賞者が代表として所属する国のことです。受賞は前年の活躍で決まるので、ワールドカップが始まる時点ではすでに分かっています。だから「今大会の保持国はどこか」を先に言えるわけです。
この記事の数字:18大会を並べると最多は準優勝6回で、優勝はゼロ。
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バロンドールは1956年創設。W杯と重なるのは1958年大会からだ。ここでは「各W杯の開幕時点で最新のバロンドールを保持していた選手」の代表国を対象に、その国の順位を並べる。受賞者本人が出場したかは問わない(後で効いてくる)。
図:開幕時点の保持者を擁する国の順位(18大会)
最頻値は準優勝の6回。そして優勝はゼロで止まっている
図は編集部が作図(画像の転載ではない)。決勝には6回進みながら、6戦0勝6敗。決勝進出率だけは期待値の4.6倍と高い。
| 大会 | 開幕時点の保持者(受賞年) | その国の順位 | 優勝国 |
|---|---|---|---|
| 1958 スウェーデン | ディ・ステファノ(1957・スペイン) | 不出場(予選敗退) | ブラジル |
| 1962 チリ | シボリ(1961・イタリア) | GL敗退 | ブラジル |
| 1966 イングランド | エウゼビオ(1965・ポルトガル) | 3位 | イングランド |
| 1970 メキシコ | リベラ(1969・イタリア) | 準優勝 | ブラジル |
| 1974 西ドイツ | クライフ(1973・オランダ) | 準優勝 | 西ドイツ |
| 1978 アルゼンチン | シモンセン(1977・デンマーク) | 不出場(予選敗退) | アルゼンチン |
| 1982 スペイン | ルンメニゲ(1981・西ドイツ) | 準優勝 | イタリア |
| 1986 メキシコ | プラティニ(1985・フランス) | 3位 | アルゼンチン |
| 1990 イタリア | ファン・バステン(1989・オランダ) | ベスト16 | 西ドイツ |
| 1994 アメリカ | バッジョ(1993・イタリア) | 準優勝 | ブラジル |
| 1998 フランス | ロナウド(1997・ブラジル) | 準優勝 | フランス |
| 2002 日韓 | オーウェン(2001・イングランド) | ベスト8 | ブラジル |
| 2006 ドイツ | ロナウジーニョ(2005・ブラジル) | ベスト8 | イタリア |
| 2010 南アフリカ | メッシ(2009・アルゼンチン) | ベスト8 | スペイン |
| 2014 ブラジル | C.ロナウド(2013・ポルトガル) | GL敗退 | ドイツ |
| 2018 ロシア | C.ロナウド(2017・ポルトガル) | ベスト16 | フランス |
| 2022 カタール | ベンゼマ(2022・フランス) | 準優勝 | アルゼンチン |
| 2026 北中米 | デンベレ(2025・フランス) | ベスト4(準決勝敗退) | 7/20決定 |
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順位ごとに数え直すと、分布はこうなる。
| 順位 | 回数 | 大会 |
|---|---|---|
| 優勝 | 0 | — |
| 準優勝 | 6 | 1970・1974・1982・1994・1998・2022 |
| 3位 | 2 | 1966・1986 |
| ベスト4 | 1 | 2026 |
| ベスト8 | 3 | 2002・2006・2010 |
| ベスト16 | 2 | 1990・2018 |
| GL敗退 | 2 | 1962・2014 |
| 不出場 | 2 | 1958・1978 |
準優勝(18大会中6回)
ここがこの記事の出発点だ。よく語られる「バロンドール保持者の国は優勝できない」というジンクスは事実だが、順位の分布まで見ると、話は「勝てない」では終わらない。いちばん起きているのは「準優勝」——つまり最後の1試合まで行って、そこで負ける、という結末である。
決勝0勝6敗。しかも決勝進出率は期待値の4.6倍
保持国が決勝まで進んだ6大会を抜き出す。
| 大会 | 保持国 | 決勝の相手 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1970 | イタリア(リベラ) | ブラジル | ● |
| 1974 | オランダ(クライフ) | 西ドイツ | ● |
| 1982 | 西ドイツ(ルンメニゲ) | イタリア | ● |
| 1994 | イタリア(バッジョ) | ブラジル | ● |
| 1998 | ブラジル(ロナウド) | フランス | ● |
| 2022 | フランス(ベンゼマ) | アルゼンチン | ● |
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6戦 0勝6敗
【編集部の算出】決勝に行きやすいのに、決勝で勝てない
保持国がW杯に出場した16大会のうち、決勝に到達したのは6回=37.5%。これがどれくらい高いのかを測るため、その16大会それぞれで「出場国から無作為に1国を選んだとき、決勝に行く確率」(=2÷出場国数)を計算して平均した。
| 出場国数 | 該当大会 | 無作為に選んだ1国が決勝に行く確率 |
|---|---|---|
| 16カ国 | 1962・1966・1970・1974 | 12.5% |
| 24カ国 | 1982・1986・1990・1994 | 8.3% |
| 32カ国 | 1998〜2022の7大会 | 6.3% |
| 48カ国 | 2026 | 4.2% |
| 16大会の平均 | 8.2% | |
実際は37.5%。期待値のおよそ4.6倍の頻度で、保持国は決勝に立っている。
ただしこの比較はフェアではない、という反論を先に置いておく。バロンドール保持者を出す国は、そもそもブラジル・イタリア・オランダ・フランスといった強豪国だ。無作為に選んだ1国より決勝に行きやすいのは当たり前でもある。重要なのは倍率そのものではなく、その先だ——決勝に6回立って、勝ったのは0回。強豪国が6回連続で決勝を落とすほうが、決勝に行けることよりよほど珍しい。
【編集部の検証】前半10大会でジンクスを保証していた制度
ここからが、このジンクスの正体である。
バロンドールは1994年度まで、受賞資格がヨーロッパ国籍の選手に限られていた(95年度から欧州クラブ所属なら国籍不問、2007年から全世界に拡大。サッカーキング)。ペレもマラドーナもジーコも、資格そのものがなかったのはこのためだ。
この期間に行われたW杯は1958年から1994年までの10大会。その優勝国を並べると——
| 大会 | 優勝国 | 保持者が優勝国から出る可能性 |
|---|---|---|
| 1958・1962・1970・1994 | ブラジル | 制度上なし |
| 1978・1986 | アルゼンチン | 制度上なし |
| 1966 | イングランド | あり |
| 1974・1990 | 西ドイツ | あり |
| 1982 | イタリア | あり |
6大会(60%)
保持者は必ず欧州国籍。そして優勝国は南米。この6大会では、ジンクスが破れる余地が規則上ゼロだった。「保持国が優勝できない」の6割は、超常現象でも心理的重圧でもなく、賞のレギュレーションが生んだ算術である。
では欧州が優勝した残り4大会(1966・1974・1982・1990)はどうか。保持者はエウゼビオ(ポルトガル)、クライフ(オランダ)、ルンメニゲ(西ドイツ)、ファン・バステン(オランダ)。可能性が開いていた4大会でも、保持国は一度も優勝していない。とくに1982年は、保持者ルンメニゲの西ドイツが決勝でイタリアに敗れている。制度の説明が効かない大会でも、結果は同じだった。
資格が開かれた最初のW杯で起きたこと
1995年、バロンドールは欧州クラブ所属であれば国籍を問わなくなった。この変更後、最初のW杯が1998年フランス大会である。
そのときの保持者は、1997年に受賞したロナウド(ブラジル/当時インテル)。W杯の舞台に立った史上初の非欧州系保持者だ。「制度が原因なら、ここでジンクスは終わるはずだった」という大会である。
結果は準優勝。ブラジルは決勝でフランスに0-3で敗れた。そして資格が開かれてからの8大会(1998〜2026)でも、保持国の優勝はゼロのままだ。制度はジンクスの半分を説明するが、残り半分は説明しない。ここが、この記録の面白いところだと編集部は考えている。
保持国がW杯に出られなかった2大会
順位の表で目を引くのが「不出場」の2つだ。世界最優秀選手を擁しながら、その国が本大会にいない。
1958年:ディ・ステファノのスペイン。レアル・マドリードで欧州を制圧していた最中に、代表は予選で消えた。スペインの本大会出場は1950年の次が1962年で、1954年と1958年は間が空いている。ディ・ステファノは結局W杯に一度も出場しないままキャリアを終えた選手でもある。
1978年:シモンセンのデンマーク。デンマークがW杯本大会に初めて出るのは1986年で、1958年から1982年までは予選敗退が続いていた(ゲキサカ)。1977年の欧州最優秀選手を出した国が、翌年のW杯にいない——今では考えにくい光景だ。
この2大会を「ジンクス成立」に数えるかは、正直なところ微妙である。優勝できなかったのは事実だが、戦って負けたわけではない。本記事では順位の分布として「不出場」と明示し、判断を読者に開いておく。
2026年:デンベレのフランスはベスト4
今大会の開幕時点の保持者は、2025年受賞のウスマン・デンベレ(フランス/PSG)。そのフランスは7月14日の準決勝でスペインに0-2で敗れ、決勝を逃した。18大会目も、保持国の優勝はない。
3位決定戦は7月19日6:00(日本時間)のイングランド戦。ここで勝てば3位、負ければ4位で、順位表の分布に1行が加わる。ちなみにこの試合はデシャン監督の14年の最終戦でもある。
そして今回、決勝に残ったスペインには2024年受賞のロドリがいる。だが彼は「開幕時点の保持者」ではない。スペインが優勝しても、この記録は18大会続いたまま19大会目に持ち越される。
受賞者の国とW杯順位——関係の有無
確認できた事実は3点。
- 18大会で保持国の優勝はゼロ。最も多い順位は準優勝の6回で、決勝の成績は0勝6敗
- 決勝進出率37.5%は無作為な期待値8.2%の約4.6倍。保持国は「弱い」のではなく「決勝で勝てない」
- 前半10大会のうち6大会は、受賞資格が欧州国籍限定だったため制度上ジンクスが破れなかった。ただし資格が開かれた後の8大会でも優勝はゼロ
そのうえで編集部の見立てを述べれば、「関係がある」と言うより「同じものを別の物差しで測っている」と言うほうが近い。バロンドールはクラブでの1シーズンを測る個人賞で、その物差しで最上位に来る選手を持つ国は、当然強い。だから決勝には行く。だが決勝の90分を決めるのは、個人の年間評価ではなく、その日の1回きりの勝負だ。両者が一致しないことは、6回の敗戦が示している。
なぜ勝てないのかという仮説(研究され封じられる、1人依存の脆さ、受賞者の不在)は、ジンクス検証の記事で3つ立てて検討している。あわせてどうぞ。