この記事の要点
- 優勝国が持ち帰るのはレプリカ
- 本物はチューリッヒの博物館へ戻る
- 中まで金が詰まると70kg超で持てない
- 名前を刻む場所は2038年で尽きる
初心者メモ
Q. 「レプリカ」って偽物のこと?
ここでは FIFA が公式に作らせた複製のことです。優勝国が受け取るのは金メッキのブロンズ製で、「FIFAワールドカップ・ウィナーズ・トロフィー」という別の正式名称が付いています。こちらは永久にその国のものになります。
この記事の数字:本物は18金・高さ36.8cm・約6.1kg。中が空洞で、金が詰まっていれば70kgを超えて持ち上げられない。
結論——掲げるのは本物、持ち帰るのは別物
優勝が決まった瞬間、キャプテンが両手で高く掲げるあの金色のトロフィー。あれは本物だが、その国のものにはならない。
表彰式が終わると本物はFIFAが回収し、優勝国には金メッキのブロンズ製レプリカが渡される。こちらは「FIFAワールドカップ・ウィナーズ・トロフィー」という別の正式名称を持ち、永久にその国のものになる。2026年に16年ぶり2度目の優勝を果たしたスペインも、掲げたのは本物、持ち帰ったのはレプリカである。
素材:18金(中は空洞)
高さ:36.8cm 重さ:約6.1kg
台座:マラカイト(孔雀石)2層
設計:シルビオ・ガッザニーガ(1971年)
初めて授与:1974年 西ドイツ大会
ちなみに中が空洞なのは、けちっているからではない。18金を中まで詰めると70kgを超え、人間には持ち上げられなくなる。優勝の瞬間に掲げられなければトロフィーの意味がない。
本物の保管場所
大会と大会のあいだ、本物はスイス・チューリッヒのFIFAワールドフットボール博物館に置かれている。誰でも見に行ける。
もうひとつ変わった決まりがある。素手で触れてよいのは、W杯を優勝した選手と国家元首だけ。それ以外は、FIFAの職員であっても白い手袋をはめなければならない。
持ち帰れなくなった理由
最初からこうだったわけではない。1930年から1970年までは、優勝国がトロフィーを次の大会まで預かっていた。当時のトロフィーは「ジュール・リメ杯」といい、ギリシャ神話の勝利の女神ニケをかたどったものだった。
そして当時は「3回優勝した国が永久にもらえる」という規定があった。1970年、ブラジルが3度目の優勝でこれを達成し、ジュール・リメ杯はブラジルのものになった。
ここから先が問題である。1983年、そのトロフィーはリオデジャネイロで盗まれ、いまも見つかっていない。
FIFAは1970年の時点で新しいトロフィーを用意する必要に迫られ、1971年に設計競技を実施。7カ国から集まった53点の中からイタリアの彫刻家シルビオ・ガッザニーガの案が選ばれ、1974年の西ドイツ大会から使われている。最初に掲げたのは西ドイツの主将ベッケンバウアーだった。
永久保持の規定は、このとき廃止された。持ち主が消えたトロフィーを二度と出さないための判断である。W杯のトロフィーは、その歴史のなかで一度、完全に失われている。
図解——名前を刻む場所が尽きる
優勝国の名前は、トロフィーの台座の裏側に、その国の言語で刻まれる。日本が優勝すれば日本語で刻まれることになる。
ところが、この刻む場所には限りがある。1994年大会のあとには追加のプレートを足して場所を作った。それでも複数の資料が「入るのは2038年大会まで」としている。
図:台座に刻める優勝国の枠(1974年〜)
1974年の導入以降の優勝国を並べたもの。枠の総数は「2038年大会まで」という資料の記述から編集部が数えた概数で、実際の配置は資料によって幅がある(2038年ごろ〜2042年ごろとするものもある)。
2026年のスペインで14枠。残りは2030年、2034年、2038年の3大会分しかない。
2030年、2034年、2038年。そしてその次
次の2030年大会はW杯100周年の記念大会で、6カ国・3大陸という史上初の形式で開かれる。その次が2034年、そして2038年——ここで台座は満杯になる計算になる。
FIFAはその後どうするかを公表していない。考えられる選択肢は、台座を作り直す、トロフィーそのものを新しくする、いまのトロフィーを引退させる、のいずれかである。
おもしろいのは時間の並びだ。1930年に生まれた最初のトロフィーは40年で持ち主を失い、盗まれて消えた。1974年から使われている2代目は、2038年で書く場所を使い切る。どちらもおよそ60年前後で寿命が来る計算になる。永遠に見える金色の物体にも、意外と早く期限が来る。
まとめ
W杯のトロフィーについて覚えておくといいのは3つだけだ。掲げるのは本物、持ち帰るのはレプリカ。本物はチューリッヒにある。そして名前を書く場所は2038年で尽きる。
2030年の100周年で誰の名前が刻まれるにせよ、それは残り3枠のうちの1つになる。次にどこかの国が優勝する場面を見るときは、あの台座の裏側で枠がひとつ減っていることを思い出してほしい。