この記事の要点
- 名はイタリア語で「最終戦」の意味
- 大会名は事故死した会長にちなむ
- 29年の空白はコンフェデ杯が原因
- 2026年はUEFAの代替案をAFAが拒否
初心者メモ
Q. コパ・アメリカって何?
南米版のEURO(欧州選手権)です。南米サッカー連盟(CONMEBOL)が主催する大陸選手権で、その優勝国が南米王者になります。フィナリッシマは、この優勝国とEUROの優勝国が1試合だけ戦う大会です。
この記事の数字:41年で開催は3回、中止は2回。開かれない年のほうが多い。
結論——開かれない方が多い大会
フィナリッシマは、EURO(欧州選手権)の優勝国とコパ・アメリカ(南米選手権)の優勝国が1試合だけ戦う大会である。大陸をまたいだ「王者対王者」という、シンプルで強い企画だ。
ところが、この一戦は1985年の創設から41年で3回しか開かれていない。そして2回は、試合が組まれながら開催前に消えている。
開催:1985年・1993年・2022年の3回
中止:1989年・2026年の2回
そもそも組まれなかった期間:1993年〜2022年の29年
2026年の中止は、この大会にとって初めての出来事ではなかった。37年前にも、ほとんど同じ理由で消えている。
図解——41年の年表
歴代の全5大会は次のとおり。
| 年 | 大会名 | 対戦 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1985 | アルテミオ・フランキ杯 | フランス(EURO1984) vs ウルグアイ(コパ・アメリカ1983) | フランス 2-0 |
| 1989 | — | オランダ(EURO1988) vs ウルグアイ(コパ・アメリカ1987) | 中止 |
| 1993 | アルテミオ・フランキ杯 | アルゼンチン(コパ・アメリカ1991) vs デンマーク(EURO1992) | アルゼンチン(PK戦) |
| 2022 | フィナリッシマ | アルゼンチン(コパ・アメリカ2021) vs イタリア(EURO2020) | アルゼンチン 3-0 |
| 2026 | フィナリッシマ | スペイン(EURO2024) vs アルゼンチン(コパ・アメリカ2024) | 中止 |
図:欧州王者 対 南米王者の41年
開催3回・中止2回・空白29年。1985年と1993年の大会名はアルテミオ・フランキ杯で、現在の正式名称は CONMEBOL-UEFA カップ・オブ・チャンピオンズ。「フィナリッシマ」は2022年から使われている通称。
秘密①「フィナリッシマ」は2022年に付いた名前
名前から見ていく。「フィナリッシマ」はイタリア語で「最終戦」「グランドファイナル」を意味する。「ファイナル(final)」の最上級にあたる形で、日本語にすれば「決勝の中の決勝」といったところだ。
意外なのは、この名前が使われ始めたのが2022年だということである。UEFAが大会のブランドを発表したのは2022年3月22日。それまで、この一戦に「フィナリッシマ」という名前は存在しなかった。
同じ日に、トロフィーの正式名称も「CONMEBOL-UEFA カップ・オブ・チャンピオンズ」と発表されている。つまり現在、公式の大会名と通称は別物だ。
ロゴにも意味がある。モチーフは月桂冠で、優秀さと勝利の象徴とされる。そこにイタリアのトリコローレとアルゼンチンのアルビセレステのリボンが巻き付き、さらにプラチナと金のリボンが加えられた。UEFAはこのリボンを「CONMEBOLとUEFAの強い結びつきの象徴」と説明している。
秘密②大会名は、事故死した会長の名前
1985年と1993年、この一戦はアルテミオ・フランキ杯という名前で行われていた。
アルテミオ・フランキは、イタリアサッカー連盟会長、UEFA会長、FIFA副会長を歴任した人物である。1983年に交通事故で亡くなり、その翌々年に彼を記念して創設されたのがこの大会だった。
もう一つの旧称は「欧州・南米ネイションズカップ」。位置づけは明快で、当時クラブ世界一を決めていたインターコンチネンタルカップの代表チーム版である。クラブでやっていることを代表でもやろう、という発想から生まれた。
秘密③29年の空白を生んだ、居場所の喪失
1993年を最後に、この大会は29年間まったく開かれなかった。忘れられたわけでも、人気がなかったわけでもない。別の大会に役割を取られたのである。
1992年、サウジアラビアでキング・ファハド・カップという大会が始まった。各大陸の王者が一堂に会して戦う大会で、1997年の第3回からFIFAの管轄となり、名前をFIFAコンフェデレーションズカップに変えた。
ここで考えてみてほしい。大陸王者が全員集まる大会があるのに、欧州王者と南米王者だけを1試合戦わせる意味はどこにあるのか。
答えは「ほとんどない」だった。アルテミオ・フランキ杯は、コンフェデ杯に居場所を奪われて消えた。1993年の第2回が、そのまま最後の大会になった。
図解——29年も開かれなかった理由
図:この大会と、コンフェデ杯の関係
金がこの大会自身の出来事、青が外部(コンフェデ杯)の出来事。1993年と2017年のあいだは表示の都合で省略している。
秘密④復活のきっかけは、奪った側の消滅
そして話は反転する。今度はコンフェデ杯のほうが消えたのだ。
2017年ロシア大会を最後に、FIFAはコンフェデレーションズカップの廃止を決めた。インファンティーノ会長が各大陸連盟に送った書簡で明らかになったもので、理由はファンやスポンサーの支持が得られなかったこととされている。代替として、クラブワールドカップを4年に一度の大会へ作り替える方針が示された。
大陸王者が集まる場が消えた。すると、欧州王者と南米王者を戦わせる一戦に、また意味が戻ってくる。
- 2020年2月12日 UEFAとCONMEBOLが協力覚書に署名。男女・各年代の大陸間対決を検討する共同委員会を設置
- 2021年9月28日 両連盟が、EURO王者とコパ・アメリカ王者の対戦を正式に確認(当初は2022年からの3大会が対象)
- 2021年12月15日 2028年までの覚書を再締結。ロンドンに共同事務所を置く条項を含む
- 2022年3月22日 UEFAがブランドを発表。「フィナリッシマ」の名とトロフィー名が決まる
- 2022年6月1日 ウェンブリーで29年ぶりの開催。アルゼンチンが3-0で勝ち、メッシが2アシスト
この復活は単発では終わらなかった。翌6月2日にはフットサル版が、2023年4月には女子の第1回大会が同じウェンブリーで開かれ、イングランドがブラジルをPK戦で下している。
コンフェデ杯に殺され、コンフェデ杯の死で生き返った。これがこの大会のいちばん奇妙な履歴である。
秘密⑤2026年、消えた本当の理由
2026年3月27日、カタールのルサイル・スタジアム。スペイン対アルゼンチンという、この大会史上もっとも豪華なカードが組まれていた。
ところが中東情勢の緊迫化でカタール開催が難しくなり、UEFAは代替案を探すことになる。ここからが、単なる「情勢の問題」では終わらなかった。
- UEFAがサンティアゴ・ベルナベウ(マドリード)での開催を提案 → アルゼンチンサッカー協会(AFA)が拒否
- UEFAがベルナベウとブエノスアイレスの2試合制を提案 → AFAが拒否
- UEFAが欧州の中立地を提案 → AFAが拒否
- AFAがW杯終了後の開催を提案 → スペイン側が日程を理由に拒否
3月15日、UEFAは中止を発表した。声明は「実現可能な代替案を検討したが、いずれも最終的にアルゼンチンサッカー協会にとって受け入れられないものとなった」と述べている。
後味も悪かった。CONMEBOLのアレハンドロ・ドミンゲス会長は、アルゼンチンが優勝国だと主張した。スペイン側は反発し、スペインサッカー連盟のラファエル・ロウザン会長が反論している。試合が行われていない大会の優勝国をめぐって、両連盟が対立するという事態になった。
秘密⑥1989年と2026年に共通する消え方
ここからは編集部の見方
ここで年表に戻りたい。1989年に予定されていたオランダ対ウルグアイも、開催されずに消えている。理由は両者が試合日程で合意できなかったからだった。
2026年の中止理由は、表向きは中東情勢である。だが実際に決め手になったのは、代替案について両協会が合意できなかったことだ。
37年をはさんで、この大会は同じ理由で2度消えている。戦争でも大会運営の破綻でもなく、「日程と場所で折り合えなかった」という、きわめて事務的な理由である。
なぜそうなるのか。編集部の見方はこうだ。この大会には、開催を強制する仕組みが無い。W杯やEUROには予選があり、日程がFIFAのカレンダーで固定され、放映権契約が動いている。だがフィナリッシマは4年に一度、2つの連盟と2つの協会が「その都度」合意して初めて成立する単発の試合だ。
4者のうち1者でも降りれば消える。29年の空白も、2度の中止も、その構造から出てきた同じ現象だと考えられる。
そして4か月後のW杯決勝
中止から4か月後の2026年7月19日。W杯決勝のカードは、スペイン対アルゼンチンだった。
中止になった一戦とまったく同じ顔合わせが、より大きな舞台で実現したことになる。結果はスペインが延長の末に1-0で勝ち、16年ぶり2度目の優勝を果たした。
ただしこれは「フィナリッシマが実現した」わけではない。W杯決勝はW杯決勝であって、この大会の記録には残らない。3月に中止された第4回は、いまも開催されないままである。
皮肉なのは、優勝国をめぐって両連盟が争っていた問題に、4か月後のピッチが答えを出してしまったことだ。もちろん公式には無関係の2試合である。
まとめ
フィナリッシマは、企画としては誰もが見たい一戦だ。だが41年で3回しか開かれていない。強制力のある枠組みを持たない単発の試合は、関係者が増えるほど消えやすい。
次にこのカードが組まれるとすれば、EURO2028とコパ・アメリカ2028の優勝国が決まったあとになる。4回目が本当に開かれるかどうかは、まだ誰にも分からない。