シリーズ:W杯とバロンドールの関係(全2回)
①|W杯の「前」に決まっている賞から見る。開幕時点でバロンドールを持っていた選手の国は、その大会で何位だったのか(1958年から18大会)。
②この記事|W杯の「後」に決まる賞から見る。W杯の年に受賞した選手は、その大会で何位の国から出たのか(1958年から16大会)。
この記事の要点
- W杯イヤーの受賞者16人分を集計した
- その国はベスト4以上が12回=75%
- GL敗退は2014年C・ロナウドだけ
- 1994年まで資格は欧州国籍に限られた
初心者メモ
Q. バロンドールは誰が選ぶ賞?
記者の投票で決まる、その年の最優秀選手賞です。1994年までは欧州のクラブに所属する欧州国籍の選手しか対象になりませんでした。この記事の「ベスト4以上が75%」という数字も、その資格の変遷とあわせて読む必要があります。
この記事の数字:W杯イヤーの受賞者16人のうち、その国がベスト4以上だったのは12回=75%。
◯ 今読まれています!
1準決勝2 詳報アルゼンチン2-1イングランド先制した英は5バックにするも、メッシの2アシストで逆転→2データ分析2026年W杯の新記録・珍記録30連発前半30分シュート0本、PK2本失敗、口を覆って一発退場→3初心者ガイド2026年W杯の新ルールGK8秒ルール、口を覆うと一発退場…史上初の適用例も→4解説ビギナー向けサッカー用語辞典60語受賞者を出した国の、その年のW杯順位
対象はW杯が開催された年に発表されたバロンドール。2021年以前は12月発表・暦年評価だったため、6〜7月のW杯は評価対象にまるごと入っていた。つまりこの賞は「W杯の結果を織り込んだ上で決まる」性質を持っていた(Britannicaの解説による発表時期・評価期間の変遷は後述)。
図:受賞者を出した国のW杯順位(16大会)
W杯イヤーの受賞者は、4回に3回まで「ベスト4以上の国」から出ている
図は編集部が作図(画像の転載ではない)。1958〜2018年の16大会を集計。優勝国からの受賞が6回で最多。
| 年 | その年の受賞者(国) | その国のW杯順位 | W杯優勝国 |
|---|---|---|---|
| 1958 | コパ(フランス) | 3位 | ブラジル |
| 1962 | マソプスト(チェコスロバキア) | 準優勝 | ブラジル |
| 1966 | B・チャールトン(イングランド) | 優勝 | イングランド |
| 1970 | ミュラー(西ドイツ) | 3位 | ブラジル |
| 1974 | クライフ(オランダ) | 準優勝 | 西ドイツ |
| 1978 | キーガン(イングランド) | 不出場(予選敗退) | アルゼンチン |
| 1982 | ロッシ(イタリア) | 優勝 | イタリア |
| 1986 | ベラノフ(ソ連) | ベスト16 | アルゼンチン |
| 1990 | マテウス(西ドイツ) | 優勝 | 西ドイツ |
| 1994 | ストイチコフ(ブルガリア) | 4位 | ブラジル |
| 1998 | ジダン(フランス) | 優勝 | フランス |
| 2002 | ロナウド(ブラジル) | 優勝 | ブラジル |
| 2006 | カンナバーロ(イタリア) | 優勝 | イタリア |
| 2010 | メッシ(アルゼンチン) | ベスト8 | スペイン |
| 2014 | C・ロナウド(ポルトガル) | GL敗退 | ドイツ |
| 2018 | モドリッチ(クロアチア) | 準優勝 | フランス |
← 横にスクロールできます
順位で数え直すと、こうなる。
| その国のW杯順位 | 回数 | 受賞者 |
|---|---|---|
| 優勝 | 6 | チャールトン・ロッシ・マテウス・ジダン・ロナウド・カンナバーロ |
| 準優勝 | 3 | マソプスト・クライフ・モドリッチ |
| 3位 | 2 | コパ・ミュラー |
| 4位 | 1 | ストイチコフ |
| ベスト8 | 1 | メッシ |
| ベスト16 | 1 | ベラノフ |
| GL敗退 | 1 | C・ロナウド |
| 不出場 | 1 | キーガン |
12/16=75%
W杯に出場するのは16〜32カ国。そのうちベスト4に入るのはたった4カ国だ。そこから4分の3の受賞者が出ている。「W杯の年のバロンドールは、W杯の順位で決まっていた」と言ってほぼ差し支えない。
前の記事と真逆の結論になる理由
ここが面白いところだ。同じ賞、同じW杯を扱っているのに、数字の向きが正反対になる。
| 見方 | 賞が決まる順番 | 結果 |
|---|---|---|
| 開幕時点の保持者の国(前の記事) | W杯の前に確定 | 優勝0・決勝0勝6敗 |
| その年の受賞者の国(この記事) | W杯の後に確定 | 優勝から6回・ベスト4以上75% |
理由は単純で、矢印の向きが違う。「W杯で勝った→年末に受賞した」のが後者で、「先に受賞していた選手の国が勝つか?」が前者だ。1998年のジダン、2002年のロナウド、2006年のカンナバーロは、W杯優勝がそのまま受賞理由になっている。カンナバーロにいたっては、DFでありながらイタリアの守備を統率した功績で受賞した数少ない例だ。
【編集部の見立て】この2つを並べると、バロンドールという賞の正体が見えてくる。この賞はW杯を「予言」できないが、W杯を「追認」することはできる。むしろ、7試合の短期決戦で頂点に立った選手に、年末に賞を渡すための装置として機能してきた期間が長い、と言ったほうが実態に近い。
【編集部の検証】1994年まで存在した「優勝国から選べない年」
ただし、この75%という数字には大きな但し書きが付く。1994年度まで、バロンドールの受賞資格はヨーロッパ国籍の選手に限られていた(95年度から欧州クラブ所属なら国籍不問、2007年から全世界に拡大。サッカーキング)。
この期間にW杯を制した南米の国は6回ある。その年、賞はどこへ行ったか。
| 年 | W杯優勝国(=資格なし) | 実際の受賞者 | その国の順位 |
|---|---|---|---|
| 1958 | ブラジル | コパ(フランス) | 3位 |
| 1962 | ブラジル | マソプスト(チェコスロバキア) | 準優勝 |
| 1970 | ブラジル | ミュラー(西ドイツ) | 3位 |
| 1978 | アルゼンチン | キーガン(イングランド) | 不出場 |
| 1986 | アルゼンチン | ベラノフ(ソ連) | ベスト16 |
| 1994 | ブラジル | ストイチコフ(ブルガリア) | 4位 |
← 横にスクロールできます
この6年は「W杯で最も輝いた選手」ではなく、「欧州国籍の中で最も評価された選手」が選ばれている。そして受賞できなかった側の名前を並べると、事態の異常さが分かる。
- 1978年:ケンペス——優勝国アルゼンチンのエースで大会得点王。受賞したのは、W杯に出場すらしていないイングランドのキーガンだった
- 1986年:マラドーナ——優勝国アルゼンチンを率い、大会MVP。受賞したのは、ベスト16で消えたソ連のベラノフ。ベラノフは決勝トーナメント1回戦のベルギー戦でハットトリックを決めながらチームは敗退している
- 1994年:ロマーリオ——優勝国ブラジルのエース。バルセロナでプレーしていたが、国籍要件が撤廃されるのは翌1995年。1年違いで対象外だった
そしてフランス・フットボール誌自身が2016年、1995年度以前の賞を再評価している。その期間の39回のうち12回は、ペレ、マラドーナ、ガリンシャ、ケンペス、ロマーリオらが受賞に値したと認めた(受賞者そのものは変更していない)。賞の主催者が「あの頃の答えは間違っていた」と半世紀後に認めた、という事実は、この75%を読むときの重要な補助線になる。
言い換えれば、1958〜1994年の「ベスト4以上から選ばれる」は、「欧州のベスト4以上から選ばれる」だった。1978年のキーガンのように、欧州の上位国に突出した選手がいなければ、W杯と無関係な選出も起きた。
2010年代に切れた、W杯と賞のつながり
資格が全世界に開かれた2007年以降、皮肉なことに、W杯と受賞の関係はむしろ弱くなる。
| 年 | 受賞者 | その国の順位 | 受賞理由の中心 |
|---|---|---|---|
| 2010 | メッシ | ベスト8 | バルセロナでの実績 |
| 2014 | C・ロナウド | GL敗退 | レアル・マドリードでの実績 |
| 2018 | モドリッチ | 準優勝 | W杯準優勝+CL制覇 |
← 横にスクロールできます
2014年(C・ロナウド/ポルトガル)
16大会でただ1回。W杯で1試合も勝てなかった国の選手が、その年の世界最優秀選手になった。これはメッシとC・ロナウドがクラブで異次元の数字を出し続けた10年の産物であり、賞の物差しが代表からクラブへ完全に移った瞬間の記録でもある。
2018年のモドリッチは、その10年連続の独占を終わらせた受賞として語られることが多い。だが順位の表で見ると、これは「W杯準優勝国から選ばれる」という1962年・1974年と同じ、古い型への回帰だった。
2022年に変わった構造そのもの
2022年から、バロンドールは発表が秋(9〜10月)に移り、評価対象も暦年から「8月〜翌7月のシーズン」に変わった(Britannica)。この変更で、この記事の集計は2018年で打ち切りになる。
2022年大会は11〜12月開催。その年の賞は開幕前の10月に発表され、ベンゼマ(フランス)が受賞している。W杯より先に決まった賞なので、「W杯何位の国から選ばれたか」を問う意味がない。(結果としてフランスは準優勝だったが、これは偶然だ)
ではカタール大会は誰に反映されたのか。答えは翌2023年の賞だ。W杯を制したメッシが受賞している。つまり関係が消えたのではなく、1年ずれた。
2026年:この大会を反映するのは、2か月後の賞
そして今大会である。2026年のW杯は6〜7月開催——2025-26シーズン(2025年8月〜2026年7月)の中に、すっぽり入っている。つまり、この大会の活躍がそのまま評価されるのは、2026年9〜10月に発表される2026年のバロンドールだ。
W杯の翌年ではなく、W杯の2か月後。過去16大会の傾向がそのまま生きるなら、決勝を制した国から受賞者が出る確率が最も高いということになる。決勝はスペインが1-0(延長)で勝ち、16年ぶり2度目の優勝。ヤマルやロドリ、決勝点のフェラン・トーレスらが候補に挙がることになる。W杯の優勝カップと2か月後のバロンドールは、同じ90分(正確には120分)の上に乗っていた。
もっとも、2014年のC・ロナウドという例外が示すとおり、この賞は最後の最後でクラブの物差しに戻ることがある。今季CL・リーグを制した選手が誰かも、同じくらい効いてくる。そこが、W杯だけでは決まらないこの賞の面倒で面白いところだ。
この検証から言えること
- W杯イヤーの受賞者は、16大会中12回(75%)がベスト4以上の国から。優勝国からは6回で最多
- ただし1994年までは受賞資格が欧州国籍限定で、南米が優勝した6大会は「優勝国から選べない」年だった。ケンペス・マラドーナ・ロマーリオは資格そのものがなく、主催者自身が2016年に再評価している
- GL敗退の国から出たのは2014年のC・ロナウドのみ。不出場の国から出たのは1978年のキーガンのみ
- 2022年に発表時期と評価期間が変わり、W杯を反映する賞は「大会の直後の秋」に移った。2026年大会を映すのは2026年秋の賞
前の記事と合わせて読むと、この賞とW杯の関係は一言でまとまる。バロンドールはW杯の予告ではなく、W杯の答え合わせだ。だから先に持っている国は勝てず、勝った国が後から受け取る。7月20日の夜に優勝カップを掲げた選手の名前を覚えておくと、2か月後にもう一度その名前を聞くことになるかもしれない。